The Negligible Lab

Drowning in the sea of electrical and electronic circuits. Lost in the forest of computers and programs. 独立独歩を是とする。

LTspiceのための単相変圧器モデル

はじめに

LTspice XVIIにはいわゆる「変圧器」のモデルが用意されておりません。 2つのインダクタをschematic上に置き,それらの間に結合係数kを設定すると,変圧器として機能させることができます。

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図1: シンプルな結合インダクタの例

さて,LTspiceで変圧器を模擬する方法を解説しているブログ等は多数ありますが, そのいずれもが,「変圧比は,2つのインダクタのインダクタンス比の平方根に等しい」という解説に留まっているように見えます。 例えば図1では,L1 = 4 mH,L2 = 1 mHとしています。 この場合,変圧比は,

\displaystyle \frac{V _ {1}}{V _ {2}} = \sqrt{\frac{L _ {1}}{L _ {2}}} = \sqrt{\frac{4~\mathrm{mH}}{1~\mathrm{mH}}} = 2 \tag{1}

となり,2:1の変圧器となります。 結合係数kは大きな値,例えば密結合としてk = 1に設定しておくことができます。 しかし,上記の例…なぜ4 mHと1 mHなのか❓ 36 μHと9 μHではダメなのか❓ 疑問が生じるのではないかと推察します。

実際に変圧器を使う場合,変圧比だけでは事足りず,漏れインダクタンス(またはリアクタンス)や 励磁インダクタンス(またはリアクタンス,さらにまたは励磁電流)が知りたくなります。 また,電力工学の分野では,漏れリアクタンスを単位法(p.u.やパーセントでの表現)で表す場合がほとんどです。 そこで,

  • 1次側定格電圧V_{p\mathrm{nom}}
  • 2次側定格電圧V_{s\mathrm{nom}}
  • 定格容量S_{\mathrm{nom}}
  • 定格周波数f_{\mathrm{nom}}
  • 漏れリアクタンスX_{\mathrm{pu}}(p.u.表現)
  • 1次側巻線抵抗R_{1 \mathrm{pu}}(p.u.表現)
  • 2次側巻線抵抗R_{2 \mathrm{pu}}(p.u.表現)
  • 定格電圧を印加した場合の励磁電流I_{0 \mathrm{pu}}(p.u.表現)

を与えると,LTspiceのL1,L2,kの値を計算し,自動設定してくれるコンポーネントを作ることにしました。

各パラメータの決め方

基準インピーダンス

まず,1次側と2次側の基準インピーダンスZ0p,Z0sを求めておきましょう。

Z_{0p} = \displaystyle \frac{V_{p\mathrm{nom}}^{2}}{S_{\mathrm{nom}}} \tag{2}

また,

Z_{0s} = \displaystyle \frac{V_{s\mathrm{nom}}^{2}}{S_{\mathrm{nom}}} \tag{3}

となります。

自己インダクタンス

最初に決定するのは1次側の自己インダクタンスL1です。 励磁電流がI0 [p.u.]であるから,L1のリアクタンスX1は,次式を満たします。

X_{1} = \omega_{\mathrm{nom}} L_{1} = \displaystyle  \frac{Z_{0p}}{I_{0 \mathrm{pu}}} \tag{4}

したがって,L1は,

L_{1} = \displaystyle \frac{1}{\omega_{\mathrm{nom}}} \frac{Z_{0p}}{I_{0 \mathrm{pu}}} \tag{5}

と書けます。 (1)式の通り,変圧比の2乗がインダクタンス比になるので,2次側のL2も,

L_{2} = \displaystyle \frac{V_{s\mathrm{nom}}^{2}}{V_{p\mathrm{nom}}^{2}} L_{1}  \tag{6}

と求まります。

結合係数

結合係数kを与える方法について,結合インダクタの等価回路から考えてみましょう。

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図2: 磁気結合したインダクタ

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図3: 等価回路

図2は相互インダクタンスMによって結合した2つのインダクタです。 この磁気結合を具体的に書き出すと図3となりますね。ここではフェーザ表現(jωの世界)としております。 1次側に電源V1,2次側に負荷抵抗器Rを接続しています。 1次側から見たインピーダンスを求めてみましょう。

1次側,2次側のそれぞれにおける回路方程式は以下となります。

V_{1} = j \omega L_{1} I_{1} - j \omega M I_{2}  \tag{7}
j \omega M I_{1} = j \omega L_{2} I_{2} + R I_{2} \tag{8}

なお,電流I2の向きに注意して下さい。変圧器から流れ出る方向に取っていますので,(7)式第2項にマイナスが付いています。 (8)式をI2について解き,(7)式に代入して整理すれば

V_{1} = \left ( j \omega L_{1} + \displaystyle \frac{\omega^{2} M^{2}}{R + j \omega L_{2}} \right )  I_{1} \tag{9}

となります。 ここで,2次側が短絡したとしてR → 0 Ωとすれば,

V_{1} = j \omega \left (L_{1} - \displaystyle \frac{M^{2}}{L_{2}} \right )  I_{1} \tag{10}

となります。 ここで,相互インダクタンスMと結合係数Kには,

M = k \sqrt{L_{1} L_{2}} \tag{11}

の関係がありますので,これを(10)式に代入すれば,

V_{1} = j \omega \left (L_{1} - \displaystyle \frac{k^{2} L_{1} L_{2}}{L_{2}} \right )  I_{1} = j \omega (1 - k^{2}) L_{1} \tag{12}

と書けます。 2次側を短絡した場合のリアクタンス,すなわち1次側から見た漏れリアクタンスXl1は,

X_{l1} = \omega (1 - k^{2}) L_{1} \tag{13}

ですが,これはp.u.表現での漏れリアクタンスXpuと一致していなければなりません。 したがって,

X_{l1} = \omega (1 - k^{2}) L_{1} = X_{\mathrm{pu}} Z_{0p} \tag{14}

であり,これをkについて解けば,

k = \sqrt{1 - \displaystyle \frac{X_{\mathrm{pu}} Z_{0p}}{\omega L_{1}}} \tag{15}

が得られます。

なお,念のためですが,1次側と2次側を入れ替えて上式を導出すれば,

k = \sqrt{1 - \displaystyle \frac{X_{\mathrm{pu}} Z_{0s}}{\omega L_{2}}} \tag{16}

となり,

Z_{0p} : L_{1} = Z_{0s} : L_{2} \tag{17}

であることから,(15)式と(16)式は等しくなります。

巻線抵抗

巻線抵抗R1,R2については, 単純に基準インピーダンスZ0p,Z0sとp.u.表現での巻線抵抗R1pu,R2puより,

R_{1} = R_{1 \mathrm{pu}} Z_{0p} \tag{18}
R_{2} = R_{2 \mathrm{pu}} Z_{0s} \tag{19}

と得られます。

※)あ…1次側,2次側に関して添え字を「1, 2」と書いたり「p, s」と書いたりしてしまっている…💧

単相変圧器のモデル

以上をまとめると,

L_{1} = \displaystyle \frac{1}{\omega_{\mathrm{nom}}} \frac{Z_{0p}}{I_{0 \mathrm{pu}}} \tag{20}
L_{2} = \displaystyle \frac{V_{s\mathrm{nom}}^{2}}{V_{p\mathrm{nom}}^{2}} L_{1}  \tag{21}
k = \sqrt{1 - \displaystyle \frac{X_{\mathrm{pu}} Z_{0s}}{\omega L_{2}}} \tag{22}
R_{1} = R_{1 \mathrm{pu}} Z_{0p} \tag{23}
R_{2} = R_{2 \mathrm{pu}} Z_{0s} \tag{24}

となります。

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図4: 変圧器モデルの操作確認用schematic

LTspiceで以上を実装してみました。 例として,6,600 V/100 V,50 Hz,20 kVA,X = 15%の柱上変圧器を考えてみます(15%が妥当かどうか不明です…あくまでもLTspiceのテストのため…)。

入力条件として下記を.paramコマンドにて与えます。

.param Vp_nom=6.6k Vs_nom=100 S_nom=20k f_nom=50
.param X_pu=0.15 R1_pu=0.001 R2_pu=0.001 I0_pu=0.002

また,(20) ~ (24)式に従って,以下を同じく.paramコマンドにて計算します。

.param Z0_p={Vp_nom**2/S_nom} Z0_s={Vs_nom**2/S_nom}
.param omega_nom={2*pi*f_nom}
.param L1={Z0_p/I0_pu/omega_nom} L2={L1*(Vs_nom/Vp_nom)**2}
.param K={sqrt(1-Z0_p*X_pu/(omega_nom*L1))}
.param R1={Z0_p*R1_pu} R2={Z0_s*R2_pu}

なお,巻線抵抗R1,R2は図4中に現れておりませんが,それぞれL1,L2の内部の直列抵抗Rserとして設定しています。 なぜかschematic上に表示できないので,仕方なくテキストとして注釈を入れております。

シミュレーション結果

まず,定格負荷に近いと思われる負荷抵抗が2次側の基準インピーダンスに等しい(R3 = Z0s)場合です。

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図5: 定格負荷に近い場合

1次側の6,600 Vを印加すると,2次側に99.8 Vが得られ,6,600 V/100 Vの変圧器として機能していることが分かります。 1次側のL1の電流は2.99 Aであり,皮相電力は6,600 V × 2.99 A = 19.7 kVAです。 .measコマンドで1次側の有効電力も測っており,19.5 kWとなっておりました。

次に,2次側を短絡してみます。

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図6: 2次側を短絡した場合

2次側を短絡すると,当然ながら2次側の電圧(図6では青い波形のV(SEC))は0 Vとなります。 1次側のL1の電流は20.2 Aであり,皮相電力は6,600 V × 20.2 A = 133.3 kVAです。 変圧器の漏れリアクタンスが15%ですので,2次側を短絡した場合は定格容量をパーセントリアクタンスで除した短絡容量となっているはずですので, 20 kVA / 15% = 20 kVA / 0.15 = 133.3 kVAとなって,漏れリアクタンスを正しく模擬できていることが分かります。

図示は省略しますが,1次側と2次側を入れ替えても同様の確認ができます。

コンポーネント(subcircuit)化

使いやすいように,subscircuitにまとめてみましょう。 ネットリストに素直に書けば,例えば下記のようになるでしょう。 1次側の端子をUp,Vp,2次側の端子をUs,Vsとしました。 LTspice(他のSPICEも?)大文字と小文字を区別しないので,U,V,u,v等にはできませんので注意が必要です。

.subckt single-phase-transformer Up Vp Us Vs
L1 Up Vp {L1} Rser={R1}
L2 Us Vs {L2} Rser={R2}
K1 L1 L2 {K}
.param Vp_nom=6.6k Vs_nom=100 S_nom=20k f_nom=50
.param X_pu=0.15 R1_pu=0.001 R2_pu=0.001 I0_pu=0.002
.param Z0_p={Vp_nom**2/S_nom} Z0_s={Vs_nom**2/S_nom} omega_nom={2*pi*f_nom}
.param L1={Z0_p/I0_pu/omega_nom} L2={L1*(Vs_nom/Vp_nom)**2}
.param K={sqrt(1-Z0_p*X_pu/(omega_nom*L1))}
.param R1={Z0_p*R1_pu} R2={Z0_s*R2_pu}
.end single-phase-transformer

嗚呼,SPICEネットリストにもシンタックスハイライトを…❗

シンボルも図7のように作りました。 Drawで円弧,直線などで絵を描くスキルが上がってきている気がしています(?)。

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図7: 作成した単相変圧器のシンボル

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図8: LTspiceで電柱を描く💧

見よ,この電柱を! 陰面処理(?)までしているぞ🧱…💧

まとめ

LTspice XVIIで単相変圧器モデルを作る方法について書いてみました。 今後の課題としては - 三相変圧器(Y-Δ, Δ-Δ,Y-Y-Δ等)モデル - 磁気飽和,ヒステリシスの模擬 でしょうか…。 しかし,3相変圧器を鉄心が3脚だとか5脚だとかまで考慮してモデル化するのは骨が折れる気がします。 確か,PSCAD/EMTDCでは設定があった気がします…(零相の挙動が異なるので…)。 とりあえず,単相変圧器を3台用いた三相変圧器については簡単に作れそうなので,近日中にやってみます…!

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