はじめに
本ブログも実質的に3年目に入りました。このところ半年以上も新しい記事を投稿できておりませんでしたが,一応,生存はしております。筆者が多忙を理由に怠惰ゆえに本ブログを放置していた間に,世界史を画するような大事件がいくつも起こりましたね…。そのような社会情勢から,今後,電力需給が逼迫する事態が頻発する可能性が高まってくるでしょう。電源品質監視装置に興味があるという方も増えてくるのではないかと思っています。
過去の試み ~浮遊静電容量を用いた周波数監視装置~
さて,本ブログでは以前に,浮遊静電容量を用いて電力系統の周波数を測る装置について書いております。
negligible.hatenablog.com
これは,M5Stackのアナログ入力端子に電位として浮いている電線や金属塊を繋げ,電力系統周波数と同じ周波数のいわゆる「ハムノイズ」を拾うことで商用電源の周波数を測ろうという試みでした*1。100 Vコンセントなどに接続することなく,完全に浮いた状態で周波数を測れるという面白さがありましたが,上記の記事にあるように,如何せん波形については正しく取得できないことから,この装置は周波数しか計測できません。やっぱり電圧波形そのものをきちんと取得して,実効値や高調波を観てみたい,つまり,「電力系統の息吹を感じたい」との思いから,変圧器を用いた新しい監視装置を作ろうと考えました。
完成イメージ
図1に完成した商用電源品質監視装置の写真を示します。
図1: 完成した商用電源品質監視装置
AC 100 Vという超高圧(?)を取り扱うことから,人が充電部に触ることができないよう,システム全体をアクリルケースに収めました。マイコンはM5Stackにも搭載されているEspressif Systems社のESP32で,秋月電子通商のモジュール(AE-ESP32-WROOM-32E-MINI)を使っています。ケース前面右上に240 × 240ドットの液晶ディスプレイを取り付け,周波数,実効値,波形,スペクトルを表示するようにしました。ディスプレイへの描画に関しては,らびやんさんのLovyanGFXを活用させて頂いております。
動画1に完成した装置の動作画面を示します。
youtu.be動画1: 完成した商用電源品質監視装置の動作画面
スペクトルに関しては,本ブログでも以前に書きましたFFTのプログラムをそのまま活用しています*2。マイコンで自作FFT関数がリアルタイムでうねうね動いている──こりゃ超気持ちいい!
この装置は,計測した周波数,実効値,スペクトル(3, 5, 7, 9, 11次高調波含有率とTHD)を10秒毎にGoogle スプレッドシートにPOSTします。図2にGoogle スプレッドシートに作った監視画面,いわゆるダッシュボードを示します。これは今まさに本記事の執筆時点での様子です(早く寝ましょう💧)。
図2: Google スプレッドシートのダッシュボード
これまでに,2022年6月の電力需給逼迫に伴う周波数低め運用や,落雷に起因すると思われる電圧変動,また,宅内での家電機器の入切に伴う変動などを観測しております。
本記事の内容
本記事では,変圧器をいわゆるPT (potential transformer)として用いた電圧波形の検知方法に注目したESP32周りの回路構成について述べます。その後,周波数,電圧実効値,スペクトルの計算方法について書いていきます。さらに,Arduino IDEにて作成したC++でのプログラム,特に定周期割り込みなどについて説明します*3。また,例によって十字配線ユニバーサル基板を用いた実装について簡単に触れます。最後に,電力需給逼迫時や落雷発生時など,過去の特異な観測例をいくつかご紹介します。
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